喜劇映画研究会代表・新野敏也による ドタバタ喜劇を地で行くような体験記♪
作品の感想は語れず 衒学的な論評もできない「コメディ」によって破綻した実生活を暴露する!?

第五話 『街の灯』とキートン登場

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戦後初のリバイバル公開となった「街の灯」。チラシの日付で僕が劇場に行った日も判明!?


 渋谷の小さな名画座でチャップリン初遭遇となった『モダン・タイムス』から、待望のシリーズ第二弾『街の灯』を見たのは、約半年後の銀座(有楽町)で、それもロードショー初日だった。それだけチャップリンとの再会が待ちきれなかった訳だ。

 

 何よりも、銀座での映画鑑賞は幼稚園の年少組で先生に引率されての『バンビ』以来なので、ちゃんと街や劇場を空間認識できるように脳が成長してからだと初めての経験となる。前回の渋谷文化という小規模の劇場でも、五反田や蒲田のすさんだ映画館から比べれば天と地の差を感じていたので、今度の銀座はとにかくすべてデカイ!ゴージャスだ!キレイだ!と文明開化に打ちのめされた!

 そもそも家から近い五反田や蒲田という盛り場は、その当時だと駅前の道路で汚いオッサンが爆睡しているし、表通りはチンピラが徒党を組んでウロウロしているし、歩道は車座で昼間っから酒盛りやっている鉢巻きのオッサンたちで通れないし、路地に入ればゲロは落ちているし、鼠は走っているし、映画館はお便所臭いし、上映中にタバコ吸ってる奴はいるし・・・こんな所が大都会だと思っていたガキには、銀座はおフランスざますヨ(まだ渋谷も白衣の傷痍軍人が多く、衝撃を受けた町だったし)。

 

 さて、向かった先は有楽座という、70mm作品対応の大劇場(1984年に建て替えのため解体)で、現在の日比谷シャンテがある場所に位置していた。こう書いても今の人には劇場規模がピンとこないだろう、一階が自由席、二階が指定席で天井高は四階か五階分くらいある、約1200人収容の巨大映画館なのだ。

 こんなデカイ劇場でも、ヒステリカルな母親とチケット売り場に到着した時は、既に上映終了二回待ち!確か、建物周囲を取り巻くように並べと拡声器の案内係に促され、午後早くに並び始めて入場できたのは夕方近くだったと記憶する。それだけチャップリンのブームは強烈だったのだ。

 そしてようやく場内へなだれ込むと、超チビで馬鹿ガキだった僕の手を母親は乱暴に引っ張って(大劇場で迷子になると面倒だと思ったのか)最前列に座らせるのであった。この席がたまたま空いていたのだけど、ココから貴重な体験を得る結果となり、「無声映画」というカテゴリーを真面目に(?)調べるキッカケが生まれた。だから、僕の記憶の中に生きる狂人そのものの母親でも、とりあえずは感謝しておく!?

 

 いよいよチャップリンが喋らないという事だけは理解して臨んだ『街の灯』、前回の『モダン・タイムス』より数か月分だけオツムが成長したようで、細かいディティールこそまだ理解はできないけど、とにかく最初から最後まで大感激の連続だった。さらに感激を倍加させたのは、客席の盛り上がり方だった。

 今の映画館だと消防法を遵守するために定員以上は入れないけど、昭和40年代はほとんどの劇場が回転率と収容人数を最優先していたので、圧殺しようが窒息しようがお構いなしに詰め込んでいた。なので、有楽座の規模でもトンデモナイ混雑ぶりとなっている。一階通路も埋めた1500人くらいのお客さん全員が大爆笑となるのだから、場内は常に微震が起きていて、スクリーンからの伴奏などほとんど聞こえない!竜巻の中にいるような状態だった!

 そこで何よりも、隣りに座る中年のオッサンの笑い方が尋常ではなく、椅子から転がり落ちて床にベタ尻となり、体勢を立て直す事ができないまま(本当に腹を抱えて)笑い続けている!知識の足りない馬鹿ガキの僕でさえ陳腐に思うようなギャグでも、このオッサンは大爆笑で、ボクシングのシーンが始まるとほとんど死戦期呼吸みたいなになっていた!最前列だから、スクリーンの下で転がるオッサンの独演は、嫌でも見えてしまう訳だ。

 自分が大人になった今、あれだけ笑える人が羨ましいけど、思い出すとあのオッサンは画面が見られないくらい悶絶していたので、何を笑っていたのだろう・・・

 

 こんなに人々を熱狂させるチャップリンとは一体何者だろう?何十年も前の映画と知らされていたけど、この笑わせるエネルギーとは何だろう?と真剣に考え始めた。

 但し、まだチャップリン以外のコメディアンを知らず、記憶の彼方に見え隠れする『テケテケおじさん』をチャップリンだと勘違いしていたので、アタマの中では、古典映画=喜劇だけが作られていた=その時代はチャップリンしか存在しない=だから現代人を含む全人類に大ウケ、と短絡的で狂った思考が固まりつつあった。

 

 この日の興奮が醒めず、学業がさっぱりダメでも「喜劇」だけは調べてみようと探究心が湧いてきたところで、「キート」なるコメディアンが同時代に存在していたと誰からか伝えられた。そして「キート」とは「キートン」だと、無教養な筈の母親が教えてくれた(ついでに「ロイド」というメガネの人物もいると教わった)。

 さらに絶妙なタイミングで近所に住む成金の御曹司が、月刊ロードショーという大人向けの高級誌から「キートン」の写真を切り抜いて持って来た。ただの美男子にしか見えないけど、不思議な魅力を感じる・・・それがフランス映画社の企画『ハロー!キートン』第一弾の記事であり、間もなく始まる『セブン・チャンス』の紹介であった。こんなカッコイイ男性がチャップリンみたいなボケ役を演じるのか?ディーン・マーティンとジェリー・ルイスのコンビを独りで演じるみたいなスターなのか??フランス映画社配給という事は、キートンはフランスの俳優か???アラン・ドロンみたいスターなのか????こりゃ謎だ?????

 僕の期待は数か月前に『街の灯』を待ち焦がれていた時より、はるかに膨らんだ。