喜劇映画研究会代表・新野敏也による ドタバタ喜劇を地で行くような体験記♪
作品の感想は語れず 衒学的な論評もできない「コメディ」によって破綻した実生活を暴露する!?
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番外編 怪談 其の三 愛犬は永遠なり

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 これからお伝えする話は事実で、信じるか信じないかは読む人の勝手だし、幽霊か錯覚かの判断は僕にできない。でも、今回はコワイ話が苦手な人だって大丈夫だろうから、とにかく不思議な体験を味わってみて下さい。

 

 僕の幼年期は、町の中に空き地や空き家が沢山あって、ガキ共にとってはそこが格好の遊び場となっておりました。特に『悪魔くん』というテレビ番組の大ヒットもあって、仲間同士で空き家を探検する《お化け退治ごっこ》は大人気、空き家の中でたまたま別グループ(同級生)と遭遇なんて事もしょっちゅうあるくらい流行していたンです。

 

 小学校3年の時だったか、家のすぐ近くも空き家になりました。ここには老女が二人で住んでいたのですが(今になって思うと、年老いた母親と壮年期の娘の二人暮らしだろう)、おそらく年長の女性が亡くなられて、遺産整理の都合で家を売った…それで空き家になったンでしょうねぇ。

 

 そんな老女が二人で住んでいた頃、ここには「シロ」という名の犬も飼われておりました。コイツは近年のケータイ会社のCMに登場する「お父さん」役と同種だったと記憶しますが、あんなに楽しいキャラとは大違い、とにかく気性の激しいワン公でした。そのため、老女の体力では既に散歩へ連れ出すのは無理だったようで、近所のガキ共へ「犬を散歩させる」というバイトが成立していたのです!僕もそのバイトに乗ったクチで、当時として破格の一回百円、しかも距離や時間の制約がないという魅力的な、馬鹿ガキにとっては天の恵みか宝くじの一等を授けられるかのごとき課題だったンです。

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 しかし、最初に犬の散歩を任されていたのはショーチャンという三つ年上の町で有名なガキ大将(ジャイアンみたいな存在)だった筈なのに、いつの間にやら「一回百円」の話が学校中に広まって、僕の下の学年の女子までも請け始め、挙げ句の果てには見知らぬ子に連れられたシロを目撃するまでに到りました…

 こんな調子で「シロの散歩」は近隣のガキ共の間で奪い合いとなり、なかなか「仕事」にありつけない状況が続くうち、突然に老女二人とシロが町を去りました。いつ引っ越したのかガキ共にはわかりませんが、空き家だけが残って、やがて「シロの散歩」という事象も、僕ら馬鹿ガキ共のアタマの中からは消えました。

 

 さて、この後の老女たちの家ですが、管理会社が玄関に古畳を打ちつけ、窓も板で塞いでいたのですけど、それが風雨に曝されているうち見事に「お化け屋敷」っぽくなってしまいました。そうなるとガキ共は「探検しなきゃならない」ので、まず先遣隊が玄関の腐った畳ドアの下部を破ってネコみたいに侵入、中から窓をブッ壊して後続部隊を呼び込む作戦となりました。

 先遣隊は、自称「少年探偵団のリーダー」安藤君とその仲間、後続部隊は僕をリーダーに「後年にニュー・キーストンを結成する」奴らが空き家を囲むブロック塀の上で待機、という算段でした。

 

※「ニュー・キーストン」については、当ブログ『喜劇映画研究会 黎明期』より第十話以降をご参照下さい。

  

 そして予定通りに「少年探偵団」が中に入ると窓や勝手口の木戸を蹴破り、僕らを招きます。僕と相棒がブロック塀から降りようとすると、家の中から見覚えのある白い犬が出てきました!

 「あっ!シロだ!」

 相棒もシロの散歩経験があるため、同時に叫びました。シロはしばらく僕らを見ていて、家の中に逃げ込んだので、慌てて僕らも中へ突入しました。しかし、先遣隊と玄関側の見張り役(お化けが怖くて入れない低学年たち)は口を揃えて「犬なんて見てない」「犬は出入りしてない」と訴えます…確かに、偶然でも犬だけが空き家を訪れる訳ないですからね。

 仮にこの犬がシロだとしても、無人の閉鎖された家屋で陽にも当たらず、水もなしで生き延びている筈もありません。あの「白い犬」の幻を僕と相棒が同時に見るなんて事も考えられませんし…とにかく不思議な体験でした。

 

 尚、この空き家にも特別なオチがありました。ここは前回の怪談『其の二 バイト先の怨霊』に登場する、「顔面凶器の佐々木支配人」のご実家で、二人の老女は佐々木支配人の母親と祖母だったようです!

 

 この事実を知ったのはずっと後年になってからでした。僕の生家の隣りに住んでいた十歳上の人から「むかし、近所に佐々木兄弟という悪魔のようなチンピラが住んでいて、本当に怖かったンだ」と聞いていて、ちょうど幽霊サウナで顔面凶器の支配人から「アラノ君の家のそばにオレは住んでいた」と告げられた際に「どの辺りです?」と訊き返したら…見事にビンゴ!兄弟の素行があまりに悪く、家を追い出されたと教えてくれました。シロの幻も不思議ですけど、こんな偶然こそ「怪談」かもしれませんねぇ。

 

 犬にまつわる話をもうひとつ。ウチには家族同然の犬がいたのですけど、2017年1月14日に亡くなってしまいました。この日はちょうど僕の誕生日、そして京都へ出張という時でもありました。この前後がドタバタだった事から、ワン子は僕が京都へ向かう二時間前をお別れの時に選んだようでした…

 

 数週間後、ペット・ロスも癒えかけてから、かつてワン子を可愛がってくれた知人宅へ「ワン子が死亡」のお知らせと生前の写真を届けに行きました。

 その帰り道、なぜかワン子のお気に入りだった散歩コースへ足が向いたので、特に何も考えずフラフラと歩いて行きました。すると見通しの悪い十字路で一歳くらいのヨチヨチ歩きの赤ん坊を連れたお母さんに出くわしました。この親子とはまるっきり面識もないのですが、出合いがしらにその幼児が僕の足元を指さして「ワンワンだ~!」と叫ぶと、母親が「ねぇ、ワンちゃん、可愛いわねぇ」と言うではありませんか!どうもその親子には僕がワン子を連れて歩いているように見えるみたいな…

 僕はビックリしましたけど、ワン子は赤ちゃんとお母さんみたいに純粋な心の持ち主にしか見えず、もう僕みたいに濁った心の者には不可視な姿なんだろうなぁと、妙に納得しました。

ちょうどこの場所でこの服装だった。お母さんと赤ちゃんにはこの姿に見えたのかも。
(2007年撮影)