喜劇映画研究会代表・新野敏也による ドタバタ喜劇を地で行くような体験記♪
作品の感想は語れず 衒学的な論評もできない「コメディ」によって破綻した実生活を暴露する!?
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番外編 怪談 其の一 御殿山の少年

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 これからお伝えする話は事実で、信じるか信じないかは読む人の勝手だ。幽霊か錯覚かの判断は僕にできないけど、とにかくコワイ話が苦手ならば敢えて読むべきではありませんヨ~。

 

 それは1984年の夏、正確な日付は思い出せないけど、日曜日の夜だったかな。フィルムで作った最後の自主映画『椿姫』の撮影途中だった。撮影担当のY(男)と我が家でダラダラ喋っていたら夜中になっちゃったので、クルマで彼を自宅まで送る事にした。

 いきなり話が飛ぶけど、当時の僕は改造車に乗っていた。それで、この手のクルマは排気音でエンジンの調子を確かめるのと、水温上昇を気にしなければならないし、エアコンでエンジン出力が低下するのを避けるため、クソ暑くてもアホ丸出しながらエアコンを切っていた。それで窓全開の我慢運転こそがパワーを重視する改造車オーナーのステイタスだと勘違いしていた。

 こんな調子で僕のクルマはデカイ排気音を轟かせながら、助手席にYを乗せて五反田から品川へ向かう片側二車線道路(317号線)の中央車線を走っていたところ、ちょうど超大手電機メーカーS社の旧本社があった辺りのカーブ(御殿山)で赤信号に止められた。

 全開の窓から右手をブラブラ垂らしながら、ふと対向車線に目をくれると、僕のクルマから約7メートルほど離れた(つまり二車線分離れた)路肩に男児らしき子供がうずくまっているのに気づいた。おそらく小学校4年か5年くらいの体型で、車道側にカラダを出して、ガードレールの下から歩道のツツジの植え込みに頭を入れた姿勢だった。野球ボールとかを探しているような様子だけど、ピクリとも動かない。街路灯の青白い光に照らされて、短パンから伸びた素足と半袖から伸びた細い腕だけがハッキリと質感までわかるし、靴下とかスニーカーまでハッキリ認識できた。けど、頭(顔)は植え込みの暗がりでまるっきり見えなかった。

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 後続車も来なければ対向車もないので、僕は信号が青に変わってもそのまま発進せずに、しばらくは少年が何をしているのかを観察していた。でもさっきからピクリとも動かない。肌のカンジでは人形に思えないし、だからって何か人間みたいな形態のモノが車道で四つん這いになってる状況も妙である。それに「少年」のいる車線は坂の頂上から下りカーブになるので、もし本当の人間ならば車道でこのまま伏せているのは極めて危ない。大惨事になってしまう。

 

 信号が変わっても発信しないまま、ぼんやり少年を眺めている僕に、ようやく助手席のYが気づいた。

 「あの子、何やってると思う?」と僕は尋ねてみた。

 「危ねぇガキだなぁ、馬鹿じゃねぇの」とYは吐き捨てるように応えた。

 「それより今、何時か見てみ、こんな時間にガキが植え込みに頭ツッ込んで車道にかがんでいる方がおかしくねぇか?」と冷静に僕は訊いてみた。時刻はもうすぐ午前3時だ。

 「クラクション鳴らしてみようか?」

 「やめよう、もう行こうゼ」とYは急に顔面が引きつって震え始めた。

 Yは非科学的な事象をゼッタイ信じない男で、普段から超常現象とかUFOなんかを

「頭が悪い人間のクダラナイ妄想や虚言」だと喝破していた。

 だけど、僕と一緒に見た子供が何者かとても混乱したようで、そのまま家までまったく喋らない。やっとY宅へ到着すると、別れ際に「さっき見た事は、もうこれっきり忘れようゼ」とだけ言って、そそくさと家の中に入ってしまった。

 

 この原稿を作っていて今さら思い返したけど、もし、僕らがクラクションを鳴らして、少年が反応したら…それでコチラを向いたら…もっとヤバイ状況に遭ったかもしれないし、何だこんな事かと安心していたかもしれない。

 でも、午前3時チョイ前の車道でありゃねぇよ~、僕らが信号で止まる以前からずっとあの姿勢でいたのか?考えれば考えるほど、やっぱ、おかしくねぇか!

 

 当然ながら、Yを送った後の帰り道は、いくら愚鈍な僕でも少年がいた車線を通るほど余裕をかましてられないので、別ルートで家に戻った。

 

(漫画:フランチェスコ・サルタレリ作「四駒怪談」より)